前回のつづき
技術習得や教育訓練において、自動化の弊害といえるようなことが起きている。
インドと日本の比較だけではなく、過去と現在を比較した場合も。

日本のベテラン技術者は過去の恵まれない状況を経験している。
このインドローカルメーカーも創業は25年前なので、その頃を経験しているインド人技術者も、
同じような恵まれない状況を経験していると思う。
過去の恵まれない状況は、人生と同じようにその経験が現在、将来においてためになる。

私が入社した頃に使っていたダイカストマシンの中には、
その頃で購入から10年経過したような古い機械があり、
現在の最新の機械と比較すると勝負にはならないほど性能が違う。
階級が違う、というかカテゴリーが違うほどの差がある。
性能の悪い機械を使った経験により、学び、身につけ、苦しんだことも、今では役立っている。
機械の性能がよくないために、出来る限りの工夫をし、当時の理論外のことも試したり、失敗も数多くした。

機械の性能UPに加え、金型精度の向上、加工技術の向上により、
当時使用していた金型と現在の金型との比較においても同様のことが言える。

最新の機械はスピード、圧力のモニターは勿論、制御ができ30年前とは比較できないほど進んだ。
機械が進化したことはダイカストの裾野を広げ、従来できなかったものまで成型可能となった。
そのことは素晴らしいことであるが、一方、新しい技術者にとっては功罪の両面があると思う。

功については良いとして、罪については前回記述した離型剤の塗布と同様で、
機械の性能や金型の細工により要求品質の達成が容易になった。
企業にとってそのこと自体は喜ばしいことである。
しかし、現場理論的な積み重ねがなくても機械性能に頼っても達成可能となった為に、
立上げ時につまずいたり、立上げ当初は良かったものが悪化した場合などに、
対応できない、有効な対策案が打てない状況に遭遇する。

それぞれの企業の生い立ちや規模、受注製品の遍歴などにより様々であるが、
私たちが経験したことを、現在の技術者が経験できなくなっていて、、
現場理論を積み重ねることが不十分な結果が、対応できないことの一因ではないか。
加えて自動車部品を例に考えると、過去はモデルチェンジ時は同じ製品名でも、
原形をとどめないほど形状が変わったり、経済成長期であったため色々な仕事を受注できたため、
様々な形状の製品の立上げ及び生産を経験できた。
現在の自動車部品は、車はフルモデルチェンジでも、機能部品はマイナーチェンジ、
各部品はメーカーが違っても似たような形。
経済が成長していない為、新規部品がどんどん入ってくる状況ではないので、
技術者の経験の範囲が制限されている結果になってしまっていることを考えることは、
これからの技術向上にたいし、どう取り組むかの切り口になると思う。

一部のメーカーにおいては、新入社員教育用の機械を保有し実施しているところもあると聞いているが、
中小メーカーの現状を考えると厳しいものがあり、どうするかを業界として考える必要があるのでは・・・。

海外においては、そこに気づいて現在の状況を上手く使って現場理論の積み重ねが出来るか否かが、
その企業の将来の競争力強化の重要な要素になるはずである。